[ 信大物理同窓会報0040号(2012年秋号) ]
2012年9月28日配信



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          ┃信┃┃州┃┃大┃┃学┃┃物┃┃理┃┃同┃┃窓┃┃会┃┃報┃
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│田田田田田|          │★ SUPAA MAILMAGAZINE BULLETIN 2012年秋号 │
│田田田田田|            ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
│田田田田田|──┐■━━■編集・発行/信大物理同窓会事務局■━━■
│田田田田田|田田|             (http://www.supaa.com/)
│田田田田田|田田|〒390-8621松本市旭3-1-1 信州大学理学部物理教室内
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 ■「旧文理学部物理学科」+「理学部物理科学科」OB&学生と教員の会■
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  ○-- 東大総長が秋入学を提唱して学制改定の議論が盛ん --○ 
  ○-- ですが、それと並んで高2修了で大学を受験できる  --○
  ○-- 「飛び入学」が、一歩進んで「早期卒業制度」の創  --○    ∩
  ○-- 設の動きになっています。これを中心的に推進した --○  ⊂○⊃
  ○-- のが千葉大の上野信雄教授(理学2S)です。千葉大  --○    ∪
  ○-- の「先進科学プログラム」を紹介いただきました。 --○   ∞l∞
 ○-- 新粒子(ヒッグス?)発見のニュースから、8月の --○   ∞l∞ 
  ○-- 理学部イベント「自然誌科学館」で竹下先生が講演 --○   ∞l∞ 
  ○-- されましたが、今号ではその解説原稿を掲載。地元 --○   ∞l∞  
  ○-- 新聞紙面をかざった高エネ研の話題もお届けします。--○   ∞l∞  

      【 I ・ N ・ D ・ E ・ X 】
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
◇ 宮地良彦先生米寿を祝う会報告・・・・・・・・・・・・・・・ 幹事一同
◇ 九十歳予備軍の一日(「松本平タウン情報」より転載 ・・・・ 宮地 良彦
◇ 【寄稿】 ┃信┃州┃大┃学┃で┃の┃思┃い┃出┃・・・・・松本 節子 
◇【追想録】根源的なる探求の旅  連載第3回  ・・・・・・・・ 丹羽 公雄
◇ 2012年春 信大理学部物理科学科卒業生・修了生の進路状況 
◇ ┃第16回信大物理会総会記念講演┃に┃中村光廣氏(名古屋大学)┃決まる
◇ 千葉大学先進科学プログラム:17歳「飛び入学」・・・・・・・上野 信雄
◇ 素粒子物理学の大きな曲がり角 =新粒子発見に接して= ・・・・竹下 徹
◇ 信大発の小型放射線測定器の開発・・・・・・・・・・・・・・小倉 隆義
◇ [TOPICS] ヒッグス粒子国際研究 信大開発の検出器採用も
◇ ▼△ウィーン便り(12)△▼ ぶどう飲料「モスト」「シュトゥルム」と
  新酒「ホイリゲ」  ・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・大塚 直彦
◇ 理学部同窓会 森淳会長 から回答がありました・・ 信大物理同窓会事務局
◇ <再録>「同窓会費」は終身会費として1万円『会計細則』決まる!
◇ 編集後記

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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  ┃宮┃地┃良┃彦┃先┃生┃米┃寿┃を┃祝┃う┃会┃報┃告┃
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 去る、7月21日(土)松本市ホテルブエナビスタ5F、深志楼に於いて宮
地先生の米寿を祝う祝賀の宴が開催されました。当初の計画では、暑気払いの
形で開催予定でしたが、広く多くの関係者にご参加頂くために、『宮地良彦先
生の米寿を祝う会』として企画内容が再検討されました。

 元教官の皆様方をも含め、参加者を募りましたところ、元並びに現教官7名 
文理学部卒者17名 理学部卒者7名 合計31名の出席を得て盛大に開催さ
れました。近くは松本から、遠くは広島からの参加で先生もお喜びの様子と拝
察いたしました。

 会は 松原正樹さん(文理10回)のスムースな司会に乗って、根建物理同窓
会長、宮地先生、武田副学長のあいさつに続き横井政時先生の乾杯の音頭で楽
しい宴が開幕しました。

 席上、参加者32名の内、20名に及ぶスピーチの申し出があり、謝辞をは
じめ数多くのエピソードが披露され、会の楽しさと一体感が醸し出されました。
2時間に及ぶ時間もアッと言う間に過ぎ去り、紅一点参加頂いた松本節子さん
より先生に記念品の贈呈があり、締めは平林喜明さん(文理6)の音頭で恒例
の‘春寂寥’となりました。宮地先生は八高のご出身ですので、締めのお話を
申し上げたところ‘春寂寥’が好いのではないかとご理解を頂き、実現しまし
た。

 宮地先生には米寿などとは思えないパワーでテニスを始め各種の活動に活躍
されておられます。根建会長の言葉通り、これからもますますご健康で我々を
指導いただきたい思いが、溢れた一日でした。又、ご多忙の中ご参加頂きまし
た皆様に感謝を申し上げまして報告に代えさせて頂きます。
                               幹事一同

          ------------------------------------------------------------
     ___◆宮地先生からのご挨拶(録音テープより)_______

        私(わたくし)、このたびこのように米寿だということで祝っ
  、∩∩   てもらうとは思っていませんでした。実は、この5月に物理学
  ⊂田田⊃  科の同窓会がありましたので行きましたら、「先生ことし米寿
  ⊂田田⊃  ですね」と言われました。私は満(年齢)でやるものだと思いこ
  /∪∪   んでいましたが、普通は数えでやるものだと言われて、あっそ
       うかと思った次第です。その時も会が終わってから二十数名で
       祝ってもらったのですが、今回も開いていただいた。本当に皆
       さん、ありがたいことだと思っております。

        私、松本に来ましたのは1961年、ですから昭和36年。もう50
       年になります。広島の理論研から来ましたが、ここの松本に来
       て本当に良かったと思っています。考えてみますと、松本に来
       るまではいっぺんも講義なんてやったことがなかった。毎日毎
       日きょうはここまでやって何ページ進んで、この分だと1年間
       でどこまで行けるだろうか、私の講義ノートは間に合うだろう
       か、心配しながらやっていた覚えがあります。

        考えてみると、50年前は一生懸命やったつもりでございます。
       不思議なことに最近になってよく夢をみるんですよ。それは、
       「おれはこのごろちっとも授業をやったことがない。そろそろ
       首になるんじゃねえか」と、「きょうは水曜日だから量子力学
       の授業があるはずなのにしゃべらないな」と、そういう夢をし
       ょっちゅうみるんですよ。

        皆さんは、悩まされたほうの夢かもしれませんけど。いずれ
       にしましても、教え子という言葉は好きでありませんけど、そ
       う教えたつもりもありませんけど、こういう未熟な教師を50年
       もみてきていただいて、こういう企てをしていただく、皆さん
       本当にありがとうございました。

        もうひとつ有難いことは、物理同窓会のほうで私の量子力学
       の講義ノートを(WEB掲載のために)まとめるから原稿を出せ
       といわれて、それをつくった。それが妙なところで他の人に見
       てもらう機会があった。というのは私、昨年、柄にも無く俳句
       の句集を一冊つくったんです。で、その句集を京大の総長をや
       られた尾池和夫さん、地震学の方ですが、その方も俳句をやっ
       てられまして、その方が句集の評を書いてくださった。そのと
       きに俳句のこともありますが、私の講義のノートを読まれたと
       いう。その講義のノートにこういうことが書いてあったと引用
       してくださった。有難いことだと思っています。昔パソコンで
       入れた原稿が意外なところで役立った。これも、物理同窓会の
       方々のご協力によるものだと思っております。

        私はつくづく思うのですが、教師というのは非常に得な商売
       でございまして、この年になっても、たくさん集まってくださ
       る。本当に有難いと思っております。皆さん、きょうは遠いと
       ころは広島から、それから松本以外からもたくさん集まってく
       ださいまして、心からの御礼を申し上げます。そういうわけで、
       きょうは久しぶりに皆さん方のお顔を見て、お話をできるのが
       楽しみです。

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       ■ 九十歳予備軍の一日 ■ (「松本平タウン情報」7/14より転載)
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            宮地 良彦(信州大学名誉教授・物理同窓会名誉顧問) 
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  (・>   【 宮地先生が地元紙「松本平タウン情報」一面の連載コラム『展
  /彡))   望台』に寄稿された記事を全文ご紹介します。米寿を迎えられた
 / /     先生の一日、その日常や健康法の一端が垣間見れるようです。 】
 /"?k_     ---------------------------------------------------------
         アラウンド90の朝は新聞から始まる。まず目を通すのは第一
面の主要ニュースと関連記事、次いで録画候補の番組をテレビ欄にマークして
から、第一面に戻って読み始める。今日のトピックスはヒッグス粒子。すべて
の素粒子に質量を与える役割を担いながら見つかっていなかった「神の粒子」
の発見は、素粒子物理学久々の明るいニュースである。

 朝はパン食と決めていて、トマト、レタス,きゅうりのサラダに、目玉焼き
とソーセージ、牛乳とヨーグルト、スープとコーヒーまたは紅茶が定番で、支
度を始めてから片づけまで1時間とはかからない。食事中に「起きてるよ」と
娘あての携帯メールの定期便を送る。

 食後はパソコンでメールのチェック。科学雑誌ネーチャーの定期通信以外は
迷惑メールがやたらに多いが、今日は小生の米寿の会について卒業生からの連
絡が入っている。教育現場から離れて20年経っても教え子がこういうことを
考えてくれるとは教師冥利に尽きるというものだ。

 3食食べるほどの働きはないので昼食は抜きで、午後は読書や原稿書き、時
には昼寝や雑用の処理に充てる。

 難題は夕飯だが、ご親切な方から定期的な差し入れがあり、今日はその日に
あたるので、自分では作れないご馳走があり、ご飯を炊くだけでよい。夕食後
は、未読の録画ビデオ「大英博物館」を観賞してから入浴、就寝前に娘への夜
の定期メールを送信する。かくして金太郎飴の老人の一日が終わりを告げる。

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   【寄稿】 ┃信┃州┃大┃学┃で┃の┃思┃い┃出┃  
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        ■ 物理学と共に歩んだ47年間の礎 ■
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  松本 節子(文理13回卒/元明治大学理工学部教授 理学博士 川崎市在住) 
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γ ⌒ ヽ     この3月で47年勤めた明治大学理工学部を定年退職いたし
/ ノノハ    ました。現職のときは大学時代を振り返る余裕もありません
c ´ `(/   でしたが、荷物の整理をしているうちにゆっくりと昔のもの
人  ▽ノ/     を読み返す時間ができました。そこで、当時の大学生活を思
             いつくままに振り返ってみたいと思います。

  私が入学したのは1961年4月でした。くしくも宮地先生の信州大学着任と同
じ年でした。家は浅間温泉にあり、高校は蟻ヶ崎高校(当時は女子校)でした。
高校時代は体操競技に明け暮れ、インターハイ、国体と活躍(?)しておりま
した。

 当時文理の学生といえば、長野県か愛知県の教員になると言うのが通説でし
たので、大学卒業後は高校の教員になろうと考えておりました。入学してみる
とブレザーを着た大人っぽい(2,3浪らしき)男子学生が多く、女子校出の
私はしばらく下を向いて歩いておりました。ときは60年安保のすぐ後で、松本
の街にもその余波はしっかり押し寄せており、「安保反対」のプラカードを掲
げ、街の中を労働歌を歌いながら練り歩いたのを覚えております。

    ■ 宮地先生の量子力学や相対論で物理の「魅力」を学ぶ

 さて、こんな状況のもとで、私がいつから「物理学」を志したかをお話しな
ければなりません。1年次は一般教育科目で、特に専攻は決まっておりません
でした。2年次の専攻を決めるとき、第一志望の「化学」は希望者が多く、私
は成績が悪かったために第二志望の「物理」に回されたのです。実はこのこと
が私の物理学へ進む第一歩になったのです。

 2年になり、専門科目が入ってくると、高校で勉強してきた物理学とは異な
り、常識では考えられない、相矛盾する事柄(波動と粒子)を統一的に扱うと
いう考え方にひかれていきました。分からないことを学ぶのは大学生としての
特権のような気になっておりましたので、一層拍車がかかりました。

 当時のノートを開いてみると、今では考えられない程高度な授業内容でした。
先生は着任したばかりで、量子力学や、相対論を教えるために、ノートをつく
り一生懸命教えてくださっていました(先日の宮地先生の米寿のお祝いの会で、
先生自らもおっしゃっておりましたが)。その意気込みに引き込まれ、難しい
内容でも分かったような気になっていたのかもしれません。正直、古典論の科
目にはあまり興味を持つことはできませんでした。こうして、物理学の「魅力」
を信州大学で学んだのです。ちなみに当時のノートはすべて残してあります。

 その後、縁あって明治大学に職を得ました。仕事は1年生の学生実験をみる
ことでした。量子力学とは直接関係ないように思えるのですが、実は力学以外
の実験テーマはすべて電子や光に関係していて、具体的には、ブラウン管を使
った電子の運動、ネオン管を使った放電管の実験、三極管、トランジスターの
実験、ニュートンリングの実験、水銀スペクトル、光電管の実験、偏光実験な
どです。

    ■ 研究活動における私の自信の裏付けになっていたもの

 これらの実験の説明には電子や光に関する説明が必要でした。1年生にこれ
らの実験の内容を分かりやすく且つ魅力的に説明するために、若い仲間で勉強
会を開き、量子力学や固体物理学を勉強し、実験内容の説明を工夫することに
力を入れて参りました。

 以後これらの実験の説明は、かなり早い段階で、パワーポイントを使って行
い、さらにデジタルコンテンツにバージョンアップして、現在も引き継がれて
おります。明治大学理工学部のデジタルコンテンツを用いた基礎物理学実験は、
他大学に類をみない教育内容となっており(大学の物理教育 VOL.17)、物理
学科の外部評価を受けたときに審査委員から高い評価を得ました。

 理工系学生を対象とした物理学実験は、とかく軽く扱われがちですが、明治
大学では基礎物理学実験を1年生の必修科目として全学生に課し、基礎教育の
重要性を主張して参りました。ここまで自信をもって主張できたのは、着任当
時の「現象に対する説明」に真剣に取り組んだ事にあるのではないかと思って
おります。

 研究活動としては真空紫外光を用いた物性研究に関するもので「Electronic 
Structures of KDP and its family」のタイトルの研究で学位をとり、光物性
研究室を立ち上げて、学部生のみならず博士、修士課程の学生も排出しました。
そこにあったのは、信州大学で学んだ、「本物の物理学」であり、このことが
研究活動における私の自信の裏付けになっていたのだと思います。

 物理学と共に歩んだ47年間の礎になっているのは、信州大学で出会った宮地
先生の「物理学」だったのです。のどかな県の森に鳴り響く将棋の音と木造校
舎で受けた授業風景が懐かしく思い起こされます。

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  【追想録】 ┃根┃源┃的┃な┃る┃探┃求┃の┃旅┃ 連載第3回 
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             ■ クォークからレプトンへ、巨大化した
         研体の中での独立行政法人大学の限界 ■
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         丹羽 公雄(文理17/元名古屋大学大学院理学研究科教授)
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【 信大文理学部から名大大学院に進学。原子核乾板飛跡自動読取装置を開発
し、世界で初めてダブルハイパー核の検出に成功した後、タウニュートリノ
反応の検出にも成功する。この発見により2004年の第50回仁
科記念賞を受賞。その後ダークマターの解明にも取り組む。       ☆ ☆
2010年3月名大退職。最終講義演題は「原子核乾板と共に格闘    /☆/
して学んだこと」でした。昨年(2011年)マスコミをにぎわせた   ///☆
「超光速ニュートリノ」騒動のなかでは、共同研究者として論  ///
文発表に名を連ねることを断った一人でした。丹羽氏がこれま
での研究生活を振り返った追想文の第3回めです。】              
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      ▼▲ タウニュートリノこそダークマター? ▼▲

 神岡の地下深くに構築された巨大な水槽「カミオカンデ」は1980年太陽が放
出しているニュートリノの観測に成功し、太陽のエネルギーが核融合であるこ
とを実証し、幸運にも1987年にマぜラン星雲の中で出現した超新星のニュート
リノ候補を捕えた。これらの功績で2004年に小柴にノーベル賞が与えられた。

 さらにカミオカンデは宇宙線が大気のトップで作るニュートリノを捕らえ、
地球の裏側から飛来するミューニュートリノに異常があると発表した。これは
ミューニュートリノからタウニュートリノへの振動の可能性を示し、ニュート
リノ質量ゼロとする標準理論を揺るがすとして注目された。

 この観測事実を高名な理論家ハラリが1988年に「タウニュートリノこそダー
クマターだ!」と発表し、その後、名古屋大学に乗り込み「貴方がFNALで
行ったE531実験のエマルション技術なら加速器でニュートリノ振動の在る無し
を検証出来る!」と扇動した。

 確かにカミオカンデではタウニュートリノを識別できないが我々の写真乾板
技術ならタウニュートリノを識別可能だと心踊った。1990年、E531より質量検
出感度を大幅に改善した1トンの写真乳剤を使う計画をFNAL(註1)とCE
RN(註2)に提案。日本のKEKの加速器ではエネルギー不足で不可能。即座に
CERNが認めた計画(CHORUS)は6カ国100人以上の、20億円の巨費を投入
ずる規模、乾板飛跡自動読み取り装置の性能向上に取り組み1994年に実験装置
を完成させた。

    (註1)FNAL[Fermi National Accelerator Laboratory]フェル
       ミ国立加速器研究所。アメリカの高エネルギー実験施設。

    (註2)CERN[the European Organization for Nuclear Research]
       欧州原子核研究機構。スイスのジュネーヴ郊外にある、世界最
       大規模の素粒子物理学の研究所。

      ▼▲ ついに「タウニュートリノ発見」と記者発表 ▼▲

 そのタイミングでカミオンデは新しい大気ニュートリノの観測結果を発表し
た。曰く「ニュートリノ質量は小さくCHORUSでは検出不可能」と言う内容だっ
たが、我々はCHORUSに邁進した。そして未だ存在さえ検証されていなかったタ
ウニュートリノの存在確認を狙う実験(DONUT)をFNALの加速器TEVATRON
で行い、タウニュートリノ候補1例を1998年高山市で開かれた国際会議に発表
した。

 SKはニュートリノの消滅をより高い精度で捕らえる結果を出し始めたがニ
ュートリノ振動の存在確定には到らなかった。CHORUSの実験も順調に進み50万
例余のニュートリノ反応を顕微鏡の視野に捕えたが、タウニュートリノは一例
もなかった。

 ニュートリノの質量は在るとしても極めて小さく、ニュートリノを宇宙のダ
ークマターとする理論は死に、とても落胆した。しかしニュートリノ振動の関
心はきわめて強くなった。

 我々は「出現するタウニュートリノを捕らえる方式」でカミオカンデが示唆
する質量を捕らえる計画案を「CERNの加速器が射出するニュートリノを73
0km離れたイタリアで1000万枚の写真乾板と鉛板を交互に重ねるECC装置1K
トンで観測する」を1999年に提案した。我々のDONUTは2000年に到り 4例のタ
ウニュートリノ候補を得て「タウニュートリノ発見」とFNALで記者発表。

 これを観たCERNのL.Maiani所長は我々の計画を評価し、来日して名大の
研究室を視察し野依理学部長、松尾総長とも会い2000年1月承認した。OPE
RAと呼ぶ実験である。

 200億円余の建設費用をイタリア、日本、フランス、ドイツ、スイス、トル
コ、ロシア、イスラエル、韓国など10カ国で負担。日本は20億円を越す写真乾
板の調達と解析を約束して始まった。しかし独立行政法人となった名古屋大学
に約束を果たす能力はなく写真乾板は計画の75%で打ち切り、研究目的ぎりぎ
りの性能となった。

      ▼▲ OPERA計画は始動したが…… ▼▲

 実験装置を設置したイタリアのグランサッソ研究所は高速道路トンネルの中
間点、地下1000m、トンネルはイタリア国土交通省とイタリア文部省の所管す
る世界に開かれた汎用研究所である。建設の進行につれて発生した想定外の費
用のほとんどをイタリアが負担し、計画より4年遅れの2009年から結果が出始
めた。

 ジュネーブで発射したミューニュートリノが化けて出現したタウニュートリ
ノを2つ、3つと検出している。すでにニュートリノ振動は定着しマスコミも
OPERAの結果に興味を示さない。ニュートリノ振動の存在確認を念には念
を入れて検証するOPERAの結果は物理学の歴史に残るものとなると信じて
いる。

 100年前、波である光の粒子性を確立したコンプトン散乱の実験は1905年の
光量子論、1915年のボーア理論がでて久しい1925年であった。

 小柴先生はニュートリノは何の役に立つの? と質問されて「知的好奇心を
満たすだけで何の役にも立ちません」と謙遜されたが、原子・原子核が研究か
ら、今日のX線CT、核磁気を使うMRI、反電子を使うPET,重イオン、
陽子、高エネルギー電子線による癌治療をもたらした。我々の写真乾板技術も
溶鉱炉の内部、火山の溶岩の動きを非破壊で観るμトモグラフィが可能である
ことを示した。

 そして原子力発電はCo2の立場からもその期待は高まっていた。しかし、昨
年の原発事故は原発全廃の世論を呼んだ。今年名大に入学した学生に原発の安
全性研究や原子力電池に興味を示す学生はほぼゼロ、核や素粒子に興味を持つ
学生も激減した。

 次回、巨費を使う基礎科学の責任と有効性、人材育成などを議論する。

                            【 以下次号 】

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 □■□□■□ 2012年春 卒業生・修了生の進路状況 □■□
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 ■ 学部卒業生/29名 →進学23名 →就職4名 →その他2名
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
《進学先》信州大学大学院理工学系研究科修士課程(18)、上越教育大学大学院
(1)、東京工業大学大学院(1)、首都大学東京大学院(1)、名古屋大学大学院(1)、
東京学芸大学大学院(1)
《就職先》 
○公務員:2 小中学校職員(1)、教員(1)
○民 間:2 東日本旅客鉄道(株) フリー 
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 ■ 大学院修士課程修了生/12名 →進学1名 →就職10名 →その他1名 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
《進学先》信大大学院理工学系研究科博士課程(1) 
《就職先》
○公務員:1 地方公務員
○民 間:9 (株)日立システムズ、(株)八十二銀行、カネテック(株)、
    イビデン(株)、ソニーイーエムシーエス(株)、ルビコン(株)(2)
    日本電気(株)、多摩川精機(株) 
----------------------------------------------------------------------
 学卒生の昨年の内訳が「進学:18名、就職:12名、未定を含むその他:8名」
だったのと比較すると、ことしの進学者は23名と大幅に増加したことが目立つ。
逆に就職は12名→4名と激減している。就職難から大学院に一時避難(?)した
傾向がうかがえるのでは。大学院への進学者は、08年26名→09年18名→10年:
22名→11年:18名→12年:23名と、20名前後で横ばい状態の範囲ではある。進
学先として信大大学院へは、04年:13名 →05年:8名 → 06年:15名 → 07年
:14名→08年:14名→ 09年:11名→10年:13名→11年:9名→12年:18名。昨
年と比べればことしは倍増していて、近年では最多の信大修士入学数である。

 学卒就職者の4名はここ数年ではもっとも少ない。うち半数の2名は公務員。
未就職者が含まれる「その他」が10年:3名→11年:8名→ことし2名。変動は
激しいが、学卒者数は昨年の38名→ことし:29名と9名も減っていて、定員が
35名であることを考えると、不明者(中途退学など)を含めればもっと多数に
なることが想像できる。

 修士卒は進学(信大博士課程)1名を除いた11名のうち10名と、9割以上が就
職している。就職先はことしは公務員は1名で、そのほかの就職先の民間企業
はすべて有力企業といっていい。就職難の状況下でよく健闘されたのではない
だろうか。                      (まとめ:藤)

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 ┃第┃16┃回┃総┃会 ┃記┃念┃講┃演┃に┃中┃村┃光┃廣┃氏┃
 ┗━┗━┗━┗━┗━ ┗━┗━┗━┗━┗━┗━┗━┗━┗━┗━   
  ◎2013年5月25日(土)に松本で開催される当会第16回総会の記念講演の講
  師として名古屋大学・素粒子宇宙起源研究機構・現象解析研究センター准
  教授中村光廣氏(理学11S)に引き受けていただくことになりました。
 ________________________________
  ※ 演題:顕微鏡できく素粒子のつぶやき
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  ビジュアル系の素粒子検出器である原子核乾板を用いた素粒子研究につい
 てご紹介いただきます。講演のあと、信大物理の先生方と「宇宙の起源、物
 質の根源」(仮)といったテーマでパネルディスカッションを企画しています。
 なお、この催しは前回同様に一般公開を予定しています。
 
  中村氏によると、信大時代は「公式の所属は素粒子論(宮地研究室)でし
 たが、それ以外に物性論(勝木研究室)、宇宙線(森研究室)のセミナーの
 一部にも出ていました」とたいへん意欲的な学生だったようす。1980年に名
 古屋大学大学院理学研究科に入学。理学博士を取得。現在の研究課題は「ニ
 ュートリノ、暗黒物質の研究、放射線検出技術の応用研究」とのことです。

  = 第16回信州大学物理会総会 幹事 = 
 ■三澤進(文理16) ■藤惇(2S) ■臼杵英男(8S) ■上條弘明(9S) 
 ■小松徹夫(16S) ■志水久(91SA) ■宮本樹(02S)  

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  □■□■ 千葉大学先進科学プログラム:17歳「飛び入学」 □■□■ 
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  上野 信雄(理学2S/統計研究室)千葉大学 大学院融合科学研究科教授、
       グローバルCOEリーダー、千葉大学学長特別補佐(経営戦略
       企画室)、中央教育審議会(文部科学省)作業部会委員
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    人      【 この夏、高校を2年間で卒業して大学入学資格が得られ
   / \ ※    る「早期卒業制度」創設の方針を文部科学省が固めたと報  
  (∴∵∴)※※    じられ、新聞やテレビを賑わせました。既に高2修了で大
    ̄ ̄ ̄※※     学に入れる「飛び入学」制度がありますが、高校中退扱い
         になるうえ、手続きが複雑。平成10年(1998年)以降、期待
したほど利用者が集まっていない点を改善しようというのが狙いの一つ。「飛
び入学」制度を先進的に取り入れた大学として千葉大学は有名ですが、その改
革を中心的に担ってこられたのが同窓の上野信雄教授です。現在、学長特別補
佐として、また中央教育審議会(文部科学省)作業部会委員としてご活躍の超多
忙な合間をぬい、「飛び入学」の実際について寄稿いただきました。千葉大学
での努力と成果が今回の「早期卒業制度」の創設につながったようです。】
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 平成6年の創案から法改正、立ち上げ、制度の定常化に携わり先進科学セン
ター長を6年間務めた。現在も戦略的側面において関わっている。同期の藤
会報編集長から「飛び入学」について紹介せよとの指令を受けたので紹介する。

「飛び入学」は、平成10年4月に初めての17歳の大学生を迎えてから15年目を
迎えている。現在、立案から17年を経ているが、教育改革が国家の最重要課題
の一つとして取り上げられ様々な論議が行われるようになっていることにも関
連して、あらためてホットな話題になっている。

「飛び入学」(先進科学プログラム)の創案に至った平成6年を思い返し、また
その第一次案が当時の文部大臣によって突然公表された平成7年から実施に至
る平成10年当時の教育界・社会の反応を思い起こすとまさに隔世の感がある。

 以下では、依頼のあった「飛び入学」を概観し、我々が目指した大学改革理
念と発想の原点、当時の教育界の状況、これを克服するために開始した高校と
の、今で言う高大接続の「独自の方式」にも言及し、飛び入学立案の黎明期か
ら計17年を振り返る。大学での高等教育改革のありかたに加え、高校教育の問
題点についても考えていただく一助としたい。

   ◎ 千葉大学の飛び入学
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 千葉大学の「飛び入学」の発端は最高学府としての大学院改革のために発案
されたものであり、「飛び入学」自体が最終ゴールではないことをまず始めに
述べておく。

 先進科学プログラム生の名称で「飛び入学」の第1期生が入学したのは、平
成10年4月である。平成24年3月までの卒業生(早期卒業・大学院への飛び入学
を含む)の数は51名、多くの卒業生が博士後期課程へ進学し、進学率は6割を
超える。平成19年に初めての博士号取得者を排出している。
(詳細は先進科学センターホームページ参照:http://www.cfs.chiba-u.ac.jp/)

 平成9年に、特例措置として数物分野での導入が決定され、平成10年に工学
部・物理系で創始、平成11年に理学部・物理への拡大後、平成14年度までは物
理・応用物理関連分野に限られていたが、平成14年度に特例措置が解除され、
15年度以降分野の拡大が可能になり、現在では物理学コース(理学部)、物理
化学・生命化学コース(理学部)人間探求コース(文学部)、フロンティアテ
クノロジー(FT)コース(工学部の各学科/分野)への入学が可能である。

 現在、3学部12学科で飛び入学生を受け入れている。当初、反対が多く、受
験希望者があっても高校から推薦されないために受験者が出ない自治体もあっ
たが、その後、海外からの応募や、海外で中等教育を受けた者を含め北海道か
ら沖縄まで多くの都道府県から応募がある。

 開始当時、物理学分野に関する飛び入学を工学部で行っていたため全国の高
校から「なぜ工学部が物理」なのかという質問がずいぶん寄せられた。物理学
イコール理学部という発想が多いのには大変おどろいた。結果として、高校教
員養成や教員免許制度のあり方の本質的な問題を考えるようになった。

   ◎  「飛び入学生」の教育
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 「飛び入学」した学生は,分野にもよるが概ね9割以上の時間は一般の学生
と一緒に普通の授業を受講している。残りの1割程度の時間が個人の能力に応
じた飛び入学生相手の独特のセミナーの時間である。

 先進教養セミナーやオムニバスセミナーなど視野を広める目的で開講されて
いる科目もあるが、多くのセミナーは数学や物理など今後の基礎となる学問の
深い理解を目指した少人数セミナーである。

 「飛び入学生」は開始当時より、入学直後の夏休み期間を利用して約1ヶ月、
海外で英語教育を中心とした研修を行っている(H23まで米国カリフォルニア、
H24からカナダ)。この研修は、コミュニケーション手段として英語を学びか
つ異文化に早期に触れることにより、国際人を育成することを目指している。

 このため研修先の選択として我々の希望を叶えてくれる大学を選んでいる。
研修では一人一人が現地の学生をルームメートとして、寮生活をする。すなわ
ち日本人同士が同室にならないように配慮している。大学での講義に参加する
だけでなく、ルームメートとの生活も重要な研修である。

   ◎  入学者選抜法の革新
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 選抜試験にも従来とは異なる方法を導入した。当初、選抜試験では解答時間
が6〜7時間の筆記試験、同程度の実験、志願者当たり約1時間の面接試験を
黒板も利用して行っていた。筆記試験ではいわゆる正答があるとか限らない課
題や複数の正答が可能な課題の出題など、着想力、創造性と構想力を問う課題
に加え、物理学に関する数理的記述を必要とする課題などを課している。与え
られた状況で最善解を論理的に得る点に重点をおくため記憶力を重視しないの
で、試験中は教科書、参考書、事典などは参考にできる。

 現在は実験を課していないが、課題の一部で、受験生自身が様々な模型や具
体的物品に手を触れながら考えられる場を出題に応じて提供している。また、
現在は、文系、理工系の志望にかかわらず参考書などを見ないで解答する基本
的な数学の試験を課している。

 高校等による推薦書・所見、受験生の自己推薦書、これまでの様々な活動実
績をはじめ、筆記試験、面接の全てを勘案した総合評価によって、先進科学プ
ログラムに適する人材を選抜している。

 総合評価は、一般入試しか経験のない高校教員にとっては分かりにくいよう
であるが、数値の合計による判定ではなく、答案の書き方、論理展開の仕方、
発想の特徴、総合的粘り強さなど、数値では表せない多彩な受験生の特徴をも
考慮した試験官の意見を集約して最終的な合否判定に至っている。試験官の見
識が要求される。

 若者の持つ可能性を見抜くことは至難であり、100%正しい方法は無いとい
うのが私たちの考えである。このため、上記の選抜方法もより良い方向に向け
て常に改善への努力を行っている。平成20年度から、工学部に新設されたナノ
サイエンス学科と理学部物理学科では、従来の飛び入学選抜方式(方式I:12
月半ば過ぎに実施)に加え、第二の選抜方式(方式II:2月25日/千葉大学個別
試験受験、3月9日頃に面接)を導入し、より多角的に受験生の能力を判断する
ことにした。現在、後者は他コースにも拡大されつつある。蛇足になるが、上
記ナノサイエンス学科は、初めての「飛び入学」を実施した工学部物理系教員
が担当する学科である。

   ◎  ゼロ以下からの出発・キーとなった方法 
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 革新的な大学教育改善計画の基幹となる「飛び入学」を開拓し実行するには
非常な覚悟と努力が必要であった。教育界だけでなく社会全体が否定的であり、
否定的な意見がマスコミを賑わしまさに四面楚歌であった。千葉大学において
も否定的意見が大勢を占めたが、戦後の日本初の「飛び入学」は工学部物理系
で導入されることになった。

 このような四面楚歌の中で千葉大学が行った方法を紹介したい。まず問題点、
克服すべき課題を綿密に分析し、以下の2点を最重点項目として実施した。

・ 教育と研究に卓越した教員と大学事務局の力の結集、機動的連絡会の設置。
・ 高校教員との「腹蔵のない」意見交換の実現(高大教員連携ネットワーク
  の創始)。 

 学長、事務局長をはじめ担当の教職員が昼食時に毎週定期的に連絡会を開催
し、課題・情報の共有と機動的な意志決定を可能とした。特に特別選抜された
若干名の教員でチームを作り、教員側では学長と先進科学プログラムのリーダ
ーが、事務職員側では総務部長が先頭に立ちその運営の中心的役割を果たし、
必要なことがただちに実行に移された。

 このような方法は、当時の国立大学の意志決定法としては未曾有のことであ
った。これらを経験した教職員は大学でのリーダシップのあり方について多く
の教訓を得ることができたように思われる。これらの教職員には「梁山泊」の
ような活力が醸成され、「無駄になるかもしれないこと」を含めてあらゆる準
備が行われた。

 重要な点は、専任教員および主たる兼旦教員は、最高レベルの研究を行うこ
とを要求された点にある。すなわち、最高学府としての大学での高等教育は、
学部教育4年、博士前期課程2年、博士後期課程3年の合計9年の教育である
という考えを重視し、学部教育も高度な研究推進を背景として実施することを
理念としている。

   ◎  高大教員連携ネットワークの創始
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 革新的な大学教育改善計画の基幹となる「飛び入学」を開拓し実行するには
非常な覚悟と努力が必要であり高校の協力が不可欠であった。形式的な会議・
催しの開催ではなく、大学教員が高校の教育現場を、また高校教員が大学の教
育現場を「真に」理解し合うことを目指したのである。この取り組みは高大教
員間の相互理解を飛躍的に進め、結果として、大学側は高校教育の課題をはじ
め高校教員が高校教育に対して持つ一般的意識や「飛び入学」に対する認識、
高校での旧態依然とした大学のランク付け、さらに飛び入学候補者の実態が把
握できるなど、「飛び入学」を実施する上で重要な役割を果たした。

 高大連携活動には、公式的な理学教育連携調査委員会の後、2次会、3次会
が様々な方法で実施されたが、特に2次回、3次会など非公式な話し合いが、
結果として、早期に大学教員と高校教員との間の確かな信頼関係を構築する重
要な役割を果たし、独自の高大連携ネットワークの基盤を形成できた。

 また、平成8年から高校教員の協力を得て、高校生の実状を探るサマースク
ール(一部ウインタースクール)の開催、さらに平成10年からは数理科学コン
クール(現在第15回)、平成18年度に試行し19年から正式とした高校生理科研
究発表会(現在第6回)などを開催し様々な調査研究を実施してきた。尚、高
校教員の育成のためにJSEC事務局(朝日新聞社)の協力を得て高校生の研究に
関する科学・技術コンクールの世界大会:ISEF@米国)に高校教員を派遣する
ことも行っている。このように高大教員間の人間的つながりが広がり、現在の
ユニークな千葉大学の高大連携ネットワークとなっている。

   ◎  「高大連携」千葉大学方式の見えざる成果
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 先進科学プログラムの創始は、学内のリーダーによる連絡会での従来にない
意志決定と教職員の連携にあったが、平成10年の初めての入学以降、定着まで
の10年に及ぶ継続は、高校教員と大学教員が腹蔵無く意見交換ができる人的ネ
ットワークの形成によるところが少なくない。

 忘れてはならないことは、先進科学プログラムの高大連携には「飛び入学」
に懐疑的あるいは反対の高校の先生方にも参加いただいことにあり、大学の多
くの努力目標の一部が彼らの「言いたい放題」から得られたことも重要であっ
た。

   ◎  切実な問題
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 将来へ向けての持続的教育向上のためには大学教員だけでなく元気な高校教
員の後継者を育成することが重要である。前述のようなネットワークを通して
我々が持った危機感は、高校教員の高年齢化で特に理科(さらに物理など)は
悲惨である。大学は定員削減などのため若手教員の比率は極度に低下しつつあ
るが、千葉大学では着実にプログラムを分担する後継者が育っている。高校側
の若手理科教員の少なさは、まだ想像を絶する状況にあり後継者問題は危機的
状況にある。

 大学の教育改革は、その枠組みを変えるだけではなく、従来にとらわれない
試みを勇気を持って行うことが重要である。しかし、一方では、大学に入学す
る学生の意識も変える必要があり、そのためには高校での教育改革と大学教育
改革は切り離せない。この視点-有機的な高大連携-が、平成6年から千葉大学が
他に先駆けて重視した点であった。

 大学が高校の実態を知り、高校が大学のあるべき姿を知る。その上で改善へ
の相互協力を行うことが革新的教育改革の必要条件であろう。

 少子化問題が、誰にでも実感できる様になり、多くの高校・大学が生徒・学
生の「奪い合い」に戦々恐々として「取り除くべき本来の病根」を忘れて過当
競争の感がある。過当競争は、結果として教員の教育・研究時間だけでなく本
来持つべき気力をも減少させる。若者のあらゆる力の低下にも直結するのであ
る。

 また一方では理科離れや学力低下がマスコミを賑わして久しい。「厳しさ」と
「おおらかさ」によって科学元気と好奇心、頑張る力をはぐくむ教育を再構築
する努力が解決への近道のように思われる。「刈り取り」から「真の育成」へ
の転換である。生徒・学生の育成だけでなく教員の育成も当然含まれる。むし
ろ教員の育成の方がより急務である。

 当然「厳しさ」は先に発つ。これが高度化教育を目指す千葉大学先進科学プ
ログラムの当初からの精神である。大学教員は怠けてはいられない。

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       ■ 素粒子物理学の大きな曲がり角 ■    
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      = 新粒子(ヒッグス?)発見に接して =
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    竹下 徹 (理学部物理科学科高エネルギー物理学研究室 教授) 
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 この夏、素粒子物理学は大きな曲がり角に立ちました。
それはヒッグス粒子の発見(正確には現時点では新粒子発      ○
見であり、ヒッグスと呼んでいいのか問題がありますが)     ○
がアナウンスされ、素粒子標準理論で予言された粒子の全     ○○
てが、そろいました。従って、これから標準理論を超える   ○○○ 
という、とてもエキサイティングな時代の幕が切って落と   ━┳━┳━
されました。

 ヒッグス粒子は標準理論の最後の未発見粒子であるばかりでなく、物質を構
成する基本粒子であるクォークやレプトン、あるいは力の媒介粒子であるゲー
ジボソンとも全く異なる、真空と同じ量子数を持つ粒子で、素粒子にそれぞれ
の質量を与える役割を担っています。宇宙がビッグバンで始まって10の(−10)
乗秒後ぐらいに起こった対称性の破れに起因して出現し宇宙を満たし、あまね
く粒子に質量を与えていると考えられています。

 私が学生のころから様々な値のヒッグス質量が予言され、加速器を作っては
発見できずという三十有余年でした。

 必ずヒッグス粒子を発見することが出来るよう設計されたLHC加速器(Large 
Hadron Collider)がCERN研究所に建設される事となり、当初より、私は研
究者としてATLAS実験に参加してきました。その後助教授としてATLAS実験を遂
行するとして長谷川さんを採用できました。以後2名体制で信州大学としてAT
LAS 実験に寄与してきました。

 私たちは測定器の中でもミュー粒子のトリガー用システムの企画、設計、製
作、搬入、運転を行い、実験を遂行しています。一つの結果が発見という形で
現れたことに報われた安堵感があります。しかしヒッグス粒子は今まで見た事
もない初めてのスカラー粒子で、1種類しかないのか、複数種あるのか、など
は今後数年内の大きな話題です。それにより標準理論を超える理論の方向性が
決まります。

 LHC加速器は世界最大で最高エネルギーの陽子陽子衝突型加速器で、私がか
つて研究に携わったLEPという電子陽電子衝突型加速器のトンネルを再利用し
て建設されました。スイス、ジュネーブ市郊外のCERN研究所は、陽子反陽
子衝突実験で弱い力を伝えるWとZボソンを発見し それ以降、素粒子物理学の
メッカとなっています。さらに電子陽電子衝突実験LEPでこれらの精密測定に
より電弱統一理論、ひいては標準理論を確立しました。

 そして最後に未発見であったヒッグス粒子発見に挑み、それほど大きくない
質量126GeVに見いだしました。この質量は実に巧妙な値です。すわなち1個し
か存在しないとする標準理論でも、はたまた5個ヒッグス粒子が存在するとす
る有力な理論でもぎりぎり許容範囲です。実に自然はうまく出来ていると関心
するばかりです。

 いまのところ、ヒッグス粒子の崩壊に関して2つのチャンネルで大きな過剰
が見られています。一つは2つのガンマーに崩壊するチャンネル(ヒッグスは
質量に結合する粒子ですから、直接は質量のないガンマーには崩壊しません、
いわゆるループを通して崩壊します、それも質量のもっとも大きいトップクオ
ークのループが主です)と2つのZに崩壊し、Zが2つのレプトン(ee,μμ)合
計4つのレプトンになる過程が検出されています。

 その割合は、統計の範囲内で標準理論の予想とあっています。他のチャンネ
ルでの測定が待たれます。

 しかし実験的制約からヒッグス粒子の全ての崩壊モードを十分な精度で測定
することは困難です。このため次世代の加速器計画 ILC ( International 
Linear Collider)のための準備研究も平行して進めています。

  ILC実験では、その超精密測定結果から標準理論を超える理論を決定づける
事が出来ると期待して準備しています。

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   ■  信大発の小型放射線測定器の開発 ■
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   小倉 隆義(理学05S/物理科学科高エネルギー物理学研究室 修士1年)
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【「従来より小型、安価で高性能という放射線測定器を開発した。すべて市販
の部品を使っているため費用は約3千円で、ポケットに入る大きさ。放射線の
持つエネルギーも測定できるため、セシウムやストロンチウムなど放射性物質
の種類も分かる」とことし(2012年)2月に信濃毎日新聞で報道された放射線測
定器。画期的な開発に取り組んだ小倉隆義さん(当時は学部4年生)ご本人か
らレポートをいただいた。現在、特許も出願中とのことです 】
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  ,,       昨年の福島原発事故以来、放射線の測定に大きな興味が集ま
二‖二    っています。そこで、普段放射線を扱っている高エネルギー物
 ‖ ,,   理学研究室でもなにかできないかと考え、研究に使っている新 
  二‖二  しい素材を使って小型で高い検出効率のある放射線測定装置の
   ‖     開発を行いました。
      
 小型の放射線検出器はGM管を用いたものが多いですが、GM管はβ線には
よいのですがγ線に対しては感度がよくありません。γ線に対してよい検出効
率をもつのは、放射線によるシンチレータの発光を光検出器(光電子増倍管)
でとらえるシンチレーション検出器です。しかし、シンチレーション検出器は
一般向けの小型放射線検出器として用いるには大型で高価です。

 私の所属する研究室で使われているシンチレータと光検出器の組み合わせ
(LYSOとMPPC)は、小型で安価なシンチレーション検出器を実現する
良い候補です。LYSOはPET(陽電子放出核種を利用した画像診断法)装
置開発用の無機シンチレータで、その名の通りLu,Y,Si,Oの4つの元素からな
り、密度は7.4g/cm3とよく知られたシンチレータであるCsIの4.5g/cm3などに
比べて高密度で、γ線の阻止能に優れます。結晶の大きさは3x3x15mmのものを
使っています。

 MPPC(Multi Pixel Photon Counter)は信州大学も開発に参加している小
さくて新しい半導体光検出器です。大きさはいくつか種類がありますが、例え
ば1mm角の受光面を3x4mmのパッケージで使うことができます。動作電圧も光電
子増倍管(約1kV)に比べて約70Vと低く、増幅率も他のフォトダイオードに比べ
て高いので検出器回路を簡単にできます。

 この組み合わせで小型放射線検出器を作ろうというのが、私の指導教員であ
る竹下先生の考えです。

 私の仕事はこの組み合わせに放射線検出器として必要な電子回路(アンプ、
計数回路、昇圧回路)を設計製作し、動作の検証を行うことでした。

 まず、プロトタイプとなるアンプと計数回路だけの基板を設計し、昨年12月
に県立松本工業高校で行われた高大連携講座の実習で使って頂き、これをもと
に設計製作を行いました。必要な部品はすべて市中で調達し、9cm x 7cmの基
板に収めることができました。また、MPPCの持つ温度特性を昇圧回路の温
度特性でキャンセルさせる工夫を導入して安定動作を実現しました。

 動作を検証したところ、市販のGM管型簡易放射線検出器に比べてγ線で4
倍程度の検出効率がある事を示せました。

 この研究は小倉の卒業研究としてまとめられ、本年(2012年)2月24日付で信
濃毎日新聞に掲載されて一定の反響を頂き、ある企業で製品化して頂けること
になりました。

 この研究の詳細は、以下のURLから見ることができます。
 ( http://hepl.shinshu-u.ac.jp/ )

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
   ┃T┃O┃P┃I┃C┃S┃ 
   ┗━┗━┗━┗━┗━┗━  
   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
      ┃ヒ┃ッ┃グ┃ス┃粒┃子┃国┃際┃研┃究┃
      ┃信┃大┃開┃発┃の┃検┃出┃器┃採┃用┃も┃
      
  ◎ドイツで性能試験へ

   物質の最小単位の素粒子の一つ「ヒッグス粒子」などを観測する加速器
  を建設する国際研究、「リ二アコライダー計画」(ILC)で、信州大学の研
  究が活躍する可能性が出ている。粒子観測の鍵を握る検出器として、信大
  理学部の教員や大学院生が主要部分の開発を担う機器が注目されているた
  めだ。計画への採用を目指し、9月18日に大学院生らがドイツに渡り、現地
  の研究施設で性能を試験する。              (渕上健太)
   
   リニアコライダー計画では地下に設けた延長約30`の加速器の中で素粒
  子同士を高速で衝突させ、誕生したヒッグス粒子が別の素粒子に変化する
  過程を観測する。加速器は世界に1カ所造られ、国内では福岡県や岩手県
  が誘致活動を展開している。建設場所や建設年は決まっていない。

   信大が開発中の検出器は幅5ミリ、縦4・5センチの樹脂製の結晶に小型
  光センサーを付けた部品を2000万個並べる構造で、検出性能に優れ、他国
  の検出器よりも低価格で製造できるのが強みという。

   今回の試験では、信大理学部高エネルギー物理学研究室の小寺克茂研究
  員と大学院生4人がハンブルクのデシー研究所の加速器で性能を試す。

   同研究室の竹下徹教授は「ヒッグス粒子の研究成果を出すには優れた検
  出器が重要。加速器の建設計画が固まる前に完成させたい」と話す。竹下
  教授はスイスにある世界最大の加速器「LHC」に設置された検出器の設計
  に携わり、現在も研究チームに加わっている。

   ヒッグス粒子は素粒子に重さ(質量)を持たせる働きがあるとみられ、宇
     宙の成り立ちに深く関わっている。大学院修士課程1年の浜崎竜太郎さん
  (25)は「国際研究に関われるのはうれしい。検出器の精度を少しでも高め
  たい」と話している。
              (市民タイムス・2012年9月14日 より全文)

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   ┃大┃塚┃直┃彦┃の┃ウ┃ィ┃ー┃ン┃便┃り ┃第┃12┃回
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  ◎ぶどう飲料「モスト」「シュトゥルム」と新酒「ホイリゲ」
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              大塚 直彦(理学24S/国際原子力機関・IAEA勤務)
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 先日シシリア島からの帰途、ウィーンの空港で冷たい雨に迎えられ夏の終わ
りを知りました。気温が徐々に下がり出すこの時期、ヨーロッパではぶどうの
       収穫が進みつつあります。シシリア島での滞在先エリーチェが
    ┳ξ   位置するトラーパニ県は世界有数のワインの産地なのだそうで、
 ●●●   パレルモ空港からエリーチェに行く間、ぶどうを満載したトラ
  ●●    クターを何度も見ました。ウィーンの我が家から見える丘の南
    ●        斜面はぶどう畑で埋め尽くされていて、丘を散歩していると畑
        の脇に時々ぶどうの絞りかすの独特の匂いを感じるのもこの季
              節です。                                  (20SEP.2012)
                             
  ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   ■「モスト」を発酵させて「シュトゥルム」(独語で嵐)
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 この収穫の季節にだけウィーンで楽しむことができるぶどうの飲み物が「モ
スト」や「シュトゥルム」です。ぶどうを絞って得た濁ったぶどうジュースが
モスト、それを1ヶ月程発酵させたものがシュトゥルムです。

 この時期にはスーパーでも瓶入りのシュトゥルムを買うことができるのです
が、なぜか普通のワインと違って瓶が2リットルと大きいのが気になって今ま
で買えずにいます。そのまま放置してワインになるのなら儲けものですがそん
な旨い話があるわけありません。

 ワインのコルク栓と違いシュトゥルムの瓶はアルミ箔のような蓋が簡単にさ
れているだけなのですが、これには発酵が進んでいるために、きっちりとした
栓をすると危ない、という事情があります。シュトゥルムはワインほどのアル
コール度数はなく、また甘くて飲みやすいので女性にも人気ですが、ついつい
これを飲み過ぎて具合が悪くなる人がいるという話を聞いたことがあります。

 シュトゥルムとは元々ドイツ語で嵐(英語だとストームですね)という意味
なので、もしかしたら飲み過ぎて悪酔いするということとこの飲み物の名前に
関係があるのかも知れません。(旧制高校でストームのことをシュトゥルムと
言うことはなかったのでしょうか?)

 さて、このシュトゥルムを更に発酵させて得られる新酒を「ホイリゲ」と言
い、「聖マルティンの日」(11月11日 ボジョレヌーボの解禁の少し前)に開封
される伝統があります。

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   ■ 新酒「ホイリゲ」はワインを出す居酒屋の名称にも
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 ホイリゲとはもともと「今年の」という意味で、例えば新じゃがを「ホイリ
ゲじゃがいも」と呼びます。また新酒という意味合いに加え、そのような地元
のワインを出す居酒屋を差す言葉としても使われます。

 ホイリゲ居酒屋は本来は自家製ワインにサラミやチーズなどを添えて出す程
度のものだったようですが、いまでは暖かい料理も出すところが殆どで、サラ
ミやチーズしか出さないホイリゲはある意味貴重です。またホイリゲと名乗り
ながら自家製のワインが出せないところもあるようです。

 この種の店の前にはよく針葉樹の葉の束がぶら下げられているのですが、こ
れは日本の造り酒屋の杉玉同様、本来は新酒が出せるようになった時にぶら下
げたもののようです。

 ホイリゲでは給仕はワインや炭酸水など飲み物のみをテーブルまで運びまた
飲み物代のみ会計します。食べ物は自分で「ビュッフェ」と呼ばれる場所にで
かけ、そこで食べたいものを選んで目方を量ってもらいその場で支払う、これ
が典型的なホイリゲです。ホイリゲでは「ホイリガー」という新酒も大抵メニ
ューの中に入っていて、決まりでは醸造された翌年の末までのワインにこの名
を冠することができるようです。

 我が家から5分ほどの場所にベートーベンが「ハイリゲンシュタットの遺書」
を記した場所がありますが、その通りにはこのようなホイリゲが数軒あり、散
歩がてら、あるいは来訪した友人とよくでかけます。

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   ■ 憂鬱な季節を紛らすためにワイン解禁やガチョウ食
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 夏の間は屋外席で飲食することが殆どで、美しい庭を眺めるのもホイリゲの
楽しみの一つです。1リットルで10ユーロ(1000円前後)と安価でまた飲みやす
いので、一人1リットル位は飲んでしまいます。それだけ飲んでもこちらのワ
インは質が良いせいか、不思議なことに翌日殆ど残らないのです。

 スーパーでも1本5ユーロ(500円前後)で美味しいワインが手に入り、これが
大体二晩で空いてしまいます。

 ウィーンはじめオーストリアワインはドイツワインなどと違い殆ど日本では
見かけないと思いますが、EU全体では認められている加糖(ぶどうの糖度が足
りない時に度数を高めるために行う)が認められていない、など、オーストリ
アのワインは品質管理が行き届いているようで、私は専らオーストリアワイン
びいきです。

 さて、新酒が解禁となる聖マルティンの日の頃には、「マルティニガンスル」
(マルティンのガチョウ)と言う、ガチョウの丸焼きを食べる習慣もあります。

 典型的には、ガチョウを焼いたものに暖かい赤キャベツを煮たものや栗が添
えられます。この聖マルティンは、自分が司教に列せられそうになった時にそ
れを断ろうとガチョウ小屋に逃げ込み、ところがガチョウが驚いて鳴いたがた
めに彼は隠れきれず、司教をしぶしぶ引き受けたそうです。

 これがガチョウを食べる習慣のいわれの一つとして今日に語り継がれていま
す。マルティニガンスルの頃は日が短くなり長い冬がいよいよやってきたな、
と憂鬱になる季節でもあり、少しでも気を紛らわせようとワインを解禁したり
ガチョウを食べたりするのかも知れません。

 私も例年何度かガチョウを楽しみつつ、ひたすら夜が一番長くなる冬至を過
ぎるのを待ちます。

 ●『OB/OG』第6回→( http://www.supaa.com/kikou/otsuka01.html )

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       ■ 理学部同窓会 森淳会長 から回答がありました ■ 
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 7月13日開催の理学部同窓会(以降・理同会)役員会に向けて、物理同窓会
(以降・当会)会長役員会名で卒業生名簿管理改善に関する6項目の提案を行
いました(当会報前号で既報)。ところが、当日の理同会役員会は紛糾し、この
提案に対してどのような結論となったのか、森会長にその見解を文書によって
回答してほしい求めたところ、8月26日着で回答書を受け取りました。(森会
長はメールを利用していないため全て手書き、郵送。森会長の希望により、当
会役員以外には全文を公開できません。)

 さて、森会長の長文の回答のうち、当会役員会提案の就職支援活動に役立て
るための名簿管理に関する肝心部分の骨子は、次のように要約されます。

                  ※ 

1)「理学部としても名簿の整理が必要」とのことなので、理学部長に対して
 理同会と協働で「作成したらどうか」と提案してきた。

2)学部の問題であるが、データを一括管理し、利用でるように追求したい。

3)理学部にパソコンを用意してもらう。名簿データへのアクセス(権)の基
 本は大学側のものであろう。

4)理同会としては、各科学内理事(ほとんど全員が本学出身の教員)が入力
 し閲覧することができる。(ということは他の役員は直接閲覧できない)

5)これらの事の具体化と運用について、学部長と理学同会長との間で『協議
 書』を作成する。

6)上記は、森会長の「私の考え方」の一端であり、これから理学同役員会に
 計り合意を得ていく。

 いちばんの驚きは、これまで2年間の議論の大前提だった「理学部名簿一括
管理」の担い手は同窓会側が負うのは当たり前としてきたことから一転、管理
の主体が理学部当局に変更されていることです。これは、学部長の『理学部で
は、「同窓会名簿」を管理する事はできません』との見解とも矛盾します。前
提がひっくり返されて、問題がすりかわってしまったので、当会からの「6項
目の提案」は有名無実と化しています。では、こうした大転換が、いつどうし
てなされたのか、そのプロセスの説明はありません。

                  ※ 

 そもそも、「理学部名簿一括管理」の必要性の実感は、2010年の当会による
第1回就職支援セミナーのときに始まります。就活生が目的の企業や役所にい
る卒業生とコンタクトをとれれば、たいへん大きな支援となります。この要望
は、就職活動学生のみならす、当時の就職委員会の先生からも出されました。
現状は、各科同窓会がばらばらに管理してこの要望に適さないもので、重要な
「勤務先」の項目がほとんど欠けています。就活への名簿の活用は、一学科に
留まらず、全学部的な情報があったほうが効果的なのは自明です。

 2010年暮れの理同会役員会への最初の提案に先立って、学部としての考えを
武田学部長にお聞きしました。そこでは『理学部では「同窓会名簿」を管理
する事はできません』とのお話でした。たしかに、他の学部では少なくともお
隣の人文学部では、卒業生・修了生名簿を学部からもらったあとは学部同窓会
が責任を持って名簿を一括管理し、日々の更新を行っています。さらに、人文
では、名簿を元に年間15人ほどの卒業生を講師に迎えて、「現代職業論U」と
いう名称で、半期単位付きの正規の授業を行い、今年は6年目に入ります。ち
なみに、名簿管理には専用ソフトを使い、小生は見学させてもらいましたが、
各種の検索が縦横にできてたいへん便利に利用できるようになっています。

 以上より、2年前の理学同役員会(2010年12月/夏と冬の年2回の開催)に
対して、理学同が主体となって、「理学部名簿一括管理」に乗り出すべきはな
いかとの提案を、当役員会から提出しました。ところが提案当初から、森会長
は現状で間に合っているとの認識に立ち、まともに議論されず、結論が先延ば
し先延ばしとされてきました。その結果、理学部の卒業名簿管理が「全学でい
ちばん遅れている」(7/13理学同役員会での武田学部長の発言)状態で、いっ
こう改善が計られることはありませんでした。

 煮え切らない議論のなかでいたずらに時間が経過していくので、やむなく当
会役員会では、今夏7月の理学同役員会に向けて、文書による「6項目の提案」
を発したというのが経緯です。このように働きかけた結果、俄かに動意づいた
印象で、しかもこれまでタブーとしてきた名簿管理を理学部当局に任せるとい
った驚くべき方向転換が今回の回答書にありました。

 名簿管理の責任を複雑にしていいのか疑問はいっぱいですが、森会長はその
考えを「これから理学同役員会に計り合意を得ていく」とし「理学部と『協議
書』を作成する」ということなので、当面、当会役員会としては注視ししなが
ら見守っていきたいと思います。

               (文責・信大物理同窓会事務局長 藤 惇) 
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 <再掲>■「同窓会費」は終身会費として1万円。『会計細則』決まる!■
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 1.同窓会費は終身会費として1万円とする。一括払いを原則とするが、本
 人からの申し出があった場合は事務局長が分割払いを認めることができる。

 2.事務局長名で金融機関に同窓会の口座を設ける。事務局長が通帳・印鑑
 を 管理する。会計担当がカードを管理して口座からの出し入れなどを行う。
 
 3.在校生からの同窓会費徴収は、事務局が徴収日を決めて実施する。徴収
 後、在校生の会費支払い者リストは、すみやかに会長ほか、会計担当および
 関連事務局員に伝達する。

 4.金融機関への振込み手数料は会員の負担とする。

 5.会計担当は、年1回開催する総会を利用したり、メールで呼びかけたり
 して、 卒業生からの会費徴収に勤める。

 6.毎年開催の同窓会総会における参加費の徴集など会計管理については、
 その年の幹事が担当し、事務局が補佐する。必要経費は事務局から事前に仮
 払いのかたちで支出できる。幹事は開催後しかるべく早く収支を事務局に報
 告し清算する。 
                          _____ 
 7.会計年度を4月から翌年3月とする。          |┌───┐| 
 会計はすみやかに決算報告を作成                  ||・┃・||
 して会計監査担当から監査を受ける。              || └┘ ||
                                                |└───┘| 
 8.本細則の改正は総会で行う。           ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 

            ┏━┳━┳━┳━┓
 ▼下記いずれかの口座に┃同┃窓┃会┃費┃のお振込みをお願いします!
            ┗━┻━┻━┻━┛
 ------------------------------------------------------------------
  ◆郵便局の場合/通常郵便貯金 
  記号:11150 番号:20343411
  口座名義:信大物理同窓会 代表者 武田三男(たけだみつお)
  住所:390-8621 松本市旭3-1-1

  ◆銀行の場合/八十二銀行 信州大学前支店
  店番号:421 普通預金 口座番号:650215  
  口座名義:信大物理同窓会 代表者 武田三男(たけだみつお)
  住所:390-8621 松本市旭3-1-1
           
 ̄/ ̄/ ̄/ ̄/ ̄/ ̄/ ̄/ ̄/ ̄ ◎編集後記◎/ ̄/ ̄/ ̄/ ̄/ ̄/ ̄/ ̄/ ̄/ ̄/ ̄

●・・企業のような法人は勿論、同窓会のような任意団体にあっても「総会」
 の役割は年間の活動報告&計画と年間決算&予算案の承認です。最高議決機
 関として、税務上も毎年開催するのが常識。ところが、我が信大理学部同窓
 会では総会の開催が「3年毎(2009年の総会で2年毎から会則改定)」です。
 それだけでも“?”ですが、現在その3年を過ぎても開催されていないと聞
 き、驚いています。会則に「本会役員の任期は3年とする」と明記されてい
 るので、任期を過ぎた現在、どのような資格で会を運営しているのでしょう。
 理学部同窓会員でもある我々は、その動きにも十分関心を払いたいものです。
       ●・・勝木先生のメールには“新戦時10 [核武装01] (2012)/
  /\ ☆   09/15”などと書かれていますが、その意味が不明でした。
 │○│     今回、いままで何気に見ていたその意味の深さが分かりまし
 │ │      た。国政の混迷、近隣諸国との軋轢の中で、ナショナリズム
/| |\    が鼓舞され、見えないところで静かに進行。けだし慧眼だと
 ̄ ̄ ̄ ̄     思います。「いつか来た道」に戻っていく危険が…現実に…。
 ||||     ●・・宮地先生の米寿を祝う会は盛会でした。小生は松本に越
       して4年。先生に近しく接しさせていただいて得た結論は、そ
 の人柄が素晴らしい方だということ。88歳とは思えぬ多岐にわたる活動も。
 ことし3期目を無投票で再選された菅谷松本市長(信州大学医学部出身)を
 市長にかつぎ出されたことは有名で、自ら後援会長をされています。かつて
 は、県の「治水・利水ダム等検討委員会委員長」を引き受けられ、旧制高校
 関連でも「白線会」の会長、「信州寮歌祭」の実行委員長などを歴任。松本
 東ロータリークラブでは「留学生の弁論大会」を年1回主催。最近は「脱原
 発長野県民集会in 松本」で基調提言を行い、社会に目を向けた発言も盛ん
 です。趣味は俳句とテニス。さらなる長寿をお祈り申し上げます。 (MT)
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○・・今年は長い暑い夏でありました。特に東京地区は降雨量が少なく、じり
 じりと焼き焦がされる思いで耐えておりました。しかし昨今の日本の状況は
 内向きで唯、耐えている訳にはいかないようです。領土問題、景気問題等、
 否が応でも近隣諸国と合いまみれなければ避けられないと思います。 
○・・9月の役員会議(SKYPEによる)で理学部の名簿管理についいて熱い討
 論がなされました。学生の就職支援活動の一環として卒業生の就職先の情報
 が必要でありますが、その情報の追跡が困難で把握が出来ない事、また会社
 と大学との関係が希薄(ブランド大学でない悲哀か?)である事を鑑みると、
 これにエネルギーを費やしてもその見返り効果が少ない様に感じました。別
 なアプローチも必要かと思います。フェースブック、ソーシャルネットの活
 用等、若い方々の柔軟な考え方、意見を伺いたいと思います。   (MM)
===================================
■ MAILMAGAZINE BULLETIN 『信大物理同窓会報』0040号(2012年秋号) ■
□ 2012年9月28日  編集・発行/信大物理同窓会事務局
《編集委員》松原正樹(文理10) 藤惇(2S) 渡辺規夫(4S) 太平博久(6S)
□編集長:藤 惇 □ 発行人:根建 恭典
■当会報のWEBでの閲覧サイト: (http://www.supaa.com/kaiho/0040.html)

             ┌──┐  (http://www.supaa.com/)
               │\/│ (info@supaa.com/) (makoto@insatell.co.jp)
             └──┘     
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