第4回
● 社会貢献性と物理現象の面白さの追求 
佐藤 祐子(理学91S 電子研究室/現・宇宙線研究室)   08JAN.2008
【(国)お茶の水女子大学総合情報処理センター 講師】 

 現役で活躍中の当同窓会員に、現場の様子などについて自由に語っていただこうというこのシリーズですが、いよいよ女性の登場です。理学91Sの佐藤祐子さんは、卒業後にいったん民間企業に就職した後、大学院に学び、現職にて、風車の翼周りの流れ場のシミュレーションを行っておられます。学生時代の楽しかった思い出にも触れていただきました。

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 私は、今から13年前の1995年に信大を卒業後、装置・設備設計会社のテクノ大手(現・三菱マテリアルテクノ)に就職しました。当時は、バブル崩壊後の就職難で就職活動に大変苦労したのを覚えています。会社では、主に海外での銅精錬プラントプロジェクトの品質管理業務を担当しました。他のエンジニアの多くは工学部出身でしたので、物理出身でしかも女性の私はかなり異色の存在だったと思います。

 プラントの設計業務は、主に機械系、電気系、土建系と分かれており、直接的に物理と関連した仕事ではありませんでしたが、物理の知識のおかげで、大まかな内容は理解することができました。そして、品質管理業務でも、プロジェクト全体の構造・流れを体系的に捕らえる上で、物理的な思考が役に立ったのではと思っています。

 約4年ほど働いたのですが、仕事を忙しくし過ぎて体を壊し、入院したのをきっかけに、これからどんな仕事を続けて行きたいのかを考え直し、もう一度、勉強をし、研究に携わりたいと思い至りました。大学院で何を専攻するかは随分悩みましたが、漠然とコンピュータによる解析をしたいと思い、お茶の水女子大学大学院の数理・情報科学専攻、河村教授のところで数値流体力学(CFD)を学ぶことにし、現在に至っています。

 今は、CFDを用いて風車の翼周りの流れ場のシミュレーションを行っています。シミュレーションは、理論と実験の中間のような立場にあり、両方の楽しさ、そして、大変さを味わうことができます。また、この研究は、工学と理学の両面、すなわち、実用性・社会貢献性の追求と物理現象そのものの面白さの追求という面を持っており、知的好奇心を満足させながらも社会に貢献できる魅力的な研究分野と言えます。

 地球温暖化による気候変動が深刻になりつつある今、再生可能エネルギーとしての風力発電の研究には注目が集まっており、今後ますます重要性が増すだろうと思います。自分自身は研究者としてまだまだ未熟者ですが、これからもこの分野で頑張っていきたいと思っています。

 また、お茶の水女子大学において、次の世代の女性サイエンティスト・エンジニアを教えることができることも、非常にやり甲斐を感じています。自分が就職した頃に比べれば随分と状況が良くなってきているとはいえ、理工系の分野における女性の活躍は十分とはいえません。今後この分野で活躍できる女性を社会に送り出し、また、社会に出た後においても支援ができるような環境作りの一助になれればと思っています。

 最後に少し、自分の学生時代の思い出をご紹介させていただきたいと思いますが、大変恐縮ながら、学生時代の私は、あまりまじめな方ではなく、ここで、思い出深い授業についてや研究への取り組みについてご紹介できないこと、お世話になった先生方には、大変申し訳なく思います。

 まず、楽しかった思い出ですが、先生方や先輩方との交流の場であった恒例の新歓やソフトボール大会、そして、銀嶺祭の時のカクテルバー"meson"(メソン)が挙げられます。信大物理学科では、新入生の頃から、先生方や先輩方と授業や研究以外で話す機会が頻繁にあり、信大物理学科はどんなところなのか、物理屋さんはどういうタイプの人たちなのかを学ぶ良い場所でした。

 特に、カクテルバー"meson"は格別で、卒業した先輩方も集まれるとてもいい縦のコミュニケーションの場であったと思います。また、3年生の時は文字通り、同期が一丸となってお店を切り盛りし、多少はめを外しすぎる人もいましたが、非常に楽しかったのを覚えています。理学部棟が新しくなった時に"meson"は無くなったと聞いていますが、大変残念なことです。

 最近は、大学に限らず、違う世代間でのコミュニケーションが希薄になってきているように思いますが、中間的な私たちの世代がうまく潤滑油となって世代間のコミュニケーションを活性化できるといいなと思っております。

 それから、一番印象深い思い出ですが、スーパーカミオカンデに水が入る前の場所へ連れていってもらった事です。大袈裟かもしれませんが、35年の人生の中で最も「ラッキー」と言える経験だったかもしれません。暑い夏の最中、ヘルメットをかぶりトロッコに揺られてたどり着いた、ひんやりとした巨大な縦穴の迫力。フォトマルが壁一面に設置され水で満たされた完成後の写真を見るにつけ、あの底に自分がいたんだと思うと今でも感慨深いものがあります。

「完成したら、きっとノーベル賞を取るよ」とおっしゃっていた森先生の言葉が約十年後に実現するとは、あの当時は実感も湧かず、ただ、その大きさに圧倒されていたように思います。このような貴重な体験をさせて下さった森先生をはじめ、当時の物理科の先生方に、この場を借りてお礼を申し上げます。

 最後になりましたが、この度今年(2008年)の同窓会総会の幹事をさせて頂くこととなりました。他の幹事の皆様と共に本会が成功するよう頑張りたいと思いますので、皆様どうぞ宜しくお願い致します。

                             以上

● 関連WEBサイト ●
Apple Education 大学「お茶の水女子大学総合情報処理センター」
http://www.apple.com/jp/education/profiles/ochanomizu2/




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