●第7回信州大学物理会総会(2004年5月22日)・講演会
「TLO&ユビキタス・コンピューティングと信州」

●講演者/雫二公雄氏(株式会社日立製作所)と原豊氏(株式会社リクルート)のレジュメ●
 講演者のおふたりが、今回の講演会用にご用意いただいたレジュメです。上の表紙をクリックしますとPDF文書が立ち上がって文書をご覧いただくことができます。たいへん素晴らしい内容です。講演会の前に、あるいは講演会の後に、ぜひとも目を通して(できたらプリントアウトして)ご理解を深めてください。

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■ 新緑萌え立つ第7回物理会総会講演会に寄せて ■


 僕は信州の学窓を巣立って以来三十年余りの期間、一貫して「IT」の世界に身を置いてきました。この世界は技術的な進歩が目覚しく、革新的な技術も三年もすれば並みになります。ある期間「花形ビジネス」の主役であっても、数年後にはもう「過去の人」になってしまいます。年長者の経験や知識など、新技術と共に颯爽と出現する若年者達に蹴散らされてしまいます。一つの企業の話ではありません。IT分野全体がそうだったのです。僕が社会人になった頃、この分野で優良大企業として威勢を張っていた企業の幾つかは既に今日見る影もありません。嘗て最先端を進軍していた企業の幾つかは、或いは買収され、或いは倒産して最早存在すらしていません。

 この期間ITの発展が東京という狭い場所に集中して来たのは、 残念ながら事実です。ITとはInformation Technologyの略称ですから、これは当然でしょう。つまり、東京という街は概ねものを造る所ではありません。造られたもので金を稼ぎ、その金で又金を儲けようと、数多の人間が凌ぎを削る場所です。だから成功の鍵は、如何に他人に先んじて情報を攫むかにあります。或いは、如何に早く広範囲に、為にする情報を流布するかという事でもあります。詰まる所、ITとは「如何に人を出し抜くか」という欲求の為に発達し、その欲求が最も凝集した場所に普及してきたのです。

 僕自身は今に至るまで、海外の(主に米国の)製品やソリューションを日本に導入するビジネスに携わってきました。この間、半導体や液晶など、ハードウェアの分野では日本の技術は海外に進出し、物によっては世界標準の地位を占めまた。しかし、ソフトウェアやアルゴリズムの分野では、アメリカ製品による完璧と言って良い「入超」でした。我々の間には「日本人は独創性に欠ける。」とか、「日本の社会や会社制度はR&D(研究開発)には向かない。」という「常識」がなんとなく根付いてしまいました。

 しかし、「線型フィルター法」という独自のアルゴリズムを開発した新進のベンチャー企業に出会い、目を開かれました。この方法を使うと、大量のデータ処理を従来に較べ数十倍〜数千倍の速度で実行できます。更にはこのアルゴリズムの拡張によって、非同期型の超並列処理が実現でき、様々な分野に革命的な変化をもたらし得るのです。「日本にも優れたアルゴリズムや技術が埋もれているのだ。」と大いに嬉しい思いでした。こういう潜在的な可能性を、どう発見し、どう社会に還元するか。そういう点からTLOに関心を持つようになった訳です。
 
 TLOのような手法で、新しいベンチャーの創生を促し、そこで高度な知的訓練を受けた若い労働力を吸収しつつ、経験・人脈の豊富な中高年層との有機的な連携を実現したい。そう思います。

 一方で、IT技術の進歩は、小型・高性能化、低廉化、そして通信インフラの飛躍的な充実となって、今までとは全く異なった可能性を今日我々の前に示しています。今までのITの世界は、主に新技術が市場をリードしていく状況でした。

 しかし、今や新技術を一つのレイヤーとして踏まえながらも、どういう用途開発を行うかが大きなテーマになっています。いうならば今や我々はITの分野で「弥生時代」を迎えつつあるのです。嘗て渡来した鉄製農具が新田の開発を促し、農業生産を飛躍的に増大させた。そこで生じた余剰農産物が、四通八達した街道を経由して、社会構造を大きく変化させた。それと同様の変化がITの世界でも起こりつつあるように思います。

 「ユビキタス・コンピューティング」つまり「どこでもコンピューティング」は、まさにそれを象徴するものです。小型・高性能化という量的変化が、あるレンジを超えて質的変化を誘導するようになったのですね。

 この「質的変化」とはどういう事か? ITが最早「人を出し抜くための技術」ではなくなるという事です。むしろ我々の生活に密着した利用法が問われる事 になる。そうなるとこの質的変化は必然的に地方のウェイトを大きくする方向に向うわけです。

 日本は今質的転換を求められている、とよく言われます。これに沿って多くの人が様々な事を云っています。しかし僕はこの転換のためのキーワードは(少なくともITの世界では)「世界に通じる日本の技術=ベンチャー」と「地方」だと思います。そして僕が「地方」と云う時、それは信州であり、信州大学であって欲しいと思うのです。

 そこで、今回の物理同窓会では、「ユビキタス・コンピューティング」、 「TLO」を「信州」、「信州大学の物理学徒」という軸に絡めて、我が畏友であり、夫々の分野の専門家である雫氏、原氏に語ってもらおうと考えたわけです。聴講者の皆さんが今回の講演会から何か触発されるものを受け取っていただければ、これは望外の幸せというものです。

【信州大学物理同窓会事務局 福井 眞(理3S)】



●「信州大学物理同窓会」事務局●

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