宮丸文章先生の研究が戦略的創造研究推進
事業
(さきがけタイプ) に採択されました! PART1 
 本年(2007年/平成19年)9月、信州大学理学部物理科学科・宮丸文章助教の研究課題『フラクタル構造による光制御可能性の探索と光機能素子の創製』が、日本科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業(さきがけタイプ)に採択されました。このことを聞き付けた我々は、11月中旬に宮丸先生の研究室を訪ねて取材。当同窓会報編集委員の岩田さん(理学19S)にレポートを書いていただきました。また、宮丸先生ご本人からも解説文をいただき、併せてご紹介いたします。

 この「さきがけ」とは、基礎研究を推進するための研究助成制度で、国内で最も評価の高い大型研究助成制度のひとつとして知られています。宮丸先生の採択課題研究の任期は平成19年10月から3年で、毎年一千万円程度の研究資金が配分されます。現在、母校は国立大学独法化による財政難や少子化による受験生の減少といった厳しい状況にあります。今回の宮丸先生の大型助成金獲得は、母校にとって大きな朗報であると言ってよいでしょう。

 光と電波の境界領域・テラヘルツ帯の研究と応用技術の発展に貢献!
 宮丸先生の主な研究分野は、テラヘルツ波工学・フォトニック結晶工学とのことです。テラヘルツ (THz) 光というのは、波長が30μm 〜 3mm程度の遠赤外光、またはミリ波・サブミリ波と呼ばれる領域の電磁波をさします。このような光と電波の中間にある電磁波帯は、遠赤外光としての光学的なアプローチの低振動数限界と、マイクロ波技術の高振動数限界の境界にあり、従来、技術が充分に発展しきれていない電磁波の領域として考えられていました。しかし、1990年代以降の超短光パルスレーザーの開発や半導体光スイッチの高性能化により、量子エレクトロニクスの手法を用いてテラヘルツ領域の電磁波の発生・検出が可能になったことから、現在では、著しく発展している科学技術分野のひとつとして脚光を浴びております。

 1990年代以降のテラヘルツテクノロジーでは、その周波数帯の特徴を生かして、危険物や違法薬物の検査、半導体ウエハーやLSI、食品、薬品などの非破壊検査、医療診断、環境計測、超高速無線通信等、様々な応用が研究されています。宮丸先生は、テラヘルツ光を用いたこのような応用を見据えて、テラヘルツ光を操るためのデバイス開発に必要な基礎的問題の解明を中心に研究を展開されているとのことです。特に、フォトニック結晶、プラズモニック結晶といった構造物の研究をされているそうです。

 フォトニック結晶とは、誘電体や金属を材料として電磁波の波長と同程度の周期構造を有する物体のことです。結晶というよりもむしろ人工構造物になります。一般に、ふつうの結晶では原子は周期的に並んでおり、その周期的なポテンシャル構造により、結晶中の電子 (の波) のとりえるエネルギーはバンド構造をつくります。光に対してもフォトニック結晶による周期ポテンシャル構造があれば、光 (の波) のとりえるエネルギーにバンド構造が生じ、多彩な光学特性によってテラヘルツ光を制御することが可能になります。

 更に、このフォトニック結晶を金属でつくったものを金属フォトニック結晶と呼びますが、金属フォトニック結晶中を伝わる光は、真空中を伝わる光とは違って、金属中の自由電子と非常に強く相互作用をしながら新たな状態で存在するようになります。一般に、金属中の自由電子の集団的な振る舞いをプラズモンと呼び、プラズモンと光が結合した状態をプラズモンポラリトンと呼ぶそうです。金属のように物質の内部に光がほとんど侵入しない場合は、表面のみにプラズモンポラリトンが存在できますので、金属フォトニック結晶内の新たな光の状態は、表面プラズモンポラリトンと呼ばれます.この表面プラズモンポラリトンは、一般的な自由空間中の光とは異なった大変特異な性質を持っており、テラヘルツ光の応答制御・応用といった観点からも非常に興味深いそうです.


  ●テラヘルツ光とフォトニック結晶の相互作用を明らかにする

 今回採択された宮丸先生の「さきがけ」研究では、テラヘルツ光を制御するためのデバイスとして、フラクタル構造をもった構造体(フォトニックフラクタル)も用いて、それと電磁波の応答を明らかにすることが中心課題とのことです。「さきがけ」の研究課題については、こちら(クリックすると研究課題に移動する)をご覧下さい。

 一方で、宮丸先生は、基礎的な研究の展開にとどまるだけではなく、研究の応用も視野に入れた精力的な研究をされていているようです。そのような構想の例が、テラヘルツ光放射用の高性能光伝導アンテナの開発やテラヘルツアンテナアレイによる2次元センサーの開発だそうです。現在、光伝導アンテナによるテラヘルツ光源は放射光強度が弱いので、フェムト秒パルスレーザーという非常に高価なレーザーを使用して発振しています。そのことのために、商業的には費用対効果が低く、テラヘルツ技術が一般に普及しない大きな要因になっています。光伝導アンテナの高性能化・小型化により、高強度・高感度の(発生・検出)アンテナを開発できれば、安価な半導体レーザーを発振に使用することができるようになり、テラヘルツ技術は実験室レベルを抜け出して、実践レベルで使用することができるようになると期待されるとのことです。更に、この高性能・小型化により、波長よりも非常に小さなアンテナが実現できれば、アンテナアレイへの応用も可能になります。これを用いるとテラヘルツ光領域における2次元センサーの実現が期待できて、テラヘルツ光イメージング技術の格段の進歩につながるそうです。

 一般に、新しい分野の応用開発では、物理学のような基礎研究が重要な役割を果たすことがあります。宮丸先生のテラヘルツ光とフォトニック結晶の相互作用を明らかにするといった基礎的な研究は、時代を先取りした新しい分野の応用を見据えた基礎研究として、近い将来、フォトニック結晶デバイスの応用開発に大きく貢献するものと思われます。

         (PART2へつづく→) 
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▲趣味は山でのんびりと風景写真の撮影


▲実験室の扉には研究に関する図解が…


▲実験装置を見つめながら構想をめぐらす


▲THzの発生から結果の測定までの実験装置全景

▲実験ラインの核心、試験物にTHz光パルスを当てる

▲核心部分の拡大写真。ここで位相と振幅を測定する


▲控えのレーザー発生装置。安価な市販品も活用


▲実験ラインの終着点。ここでデータを記憶解析する

■文/岩田 真(19S)
■写真撮影/高藤 惇(2S)


●「信州大学物理同窓会」事務局●

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