第5回
● 中谷宇吉郎雪の科学館と信大時代 
神田 健三(理学3S 統計研究室/現・磁性実験研究室) 28FEB.2008
【中谷宇吉郎雪の科学館 館長】 

 40数年前に信州大学文理学部が改組し理学部が誕生して間もなく、サークル「信大自然科学研究会」が誕生しました。その中心メンバーとして神田さんは活躍。研究の対象は北アルプス涸沢の雪渓。上高地を越えて涸沢へ足を運んだことは数知れず。「雪」への情熱は誰にもひけをとらなかった。こうした研究が、やがて氏のライフワークとなって・・・。

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 当館は、「雪博士」として知られる中谷宇吉郎(1900‐62)の科学者像と科学の魅力を広く知っていただくため、加賀市が、生地・片山津温泉の近くに建設したものです(磯崎新氏による設計)。開館(1994)以来の13年間に41万人が入館しています。

「雪は天から送られた手紙である」。

 文学的な響きのこの言葉は、宇吉郎が北海道大学で行った雪の研究のエッセンスを表現したものです。館は展示や解説で、この言葉が生まれるまでの研究の歩みを紹介し、科学の面白さを追体験してもらえるよう努めています。

 近年、特に力を入れてきたのは、雪や氷の実験・工作など体験できる内容の拡充と、職員がこれを実演してみせる態勢作りです。ダイヤモンドダスト、チンダル像、人工雪、過冷却水の凍結(結晶成長)、氷のペンダント、雪の折紙などがいつでもできるようになり、職員が実演しています。多くの入館者から、自然はこれほどまで美しく不思議なのかといった感想がよせられ、館内では感動のどよめきや拍手が起っています。

 これらの実験は、奥深い仕組みのものであっても、小学生でも現象を発生させ、観察し、なぜだろう?と考えることができる内容なので、是非体験して欲しいと思っています。実験紹介の際、館の職員は、「なぜ?」と考えることを促し、対話により理解を深めてもらうよう努めています。自然の不思議に驚き、考える充実感を体験し、多くの人に科学の面白さに気づいて欲しいと思うからです。子どもたちが学級単位など集団で入館する時は、実験や見学の後、「グリーンランドの氷河の原」の中庭で人工霧に包まれ、先が見えない中での不思議な開放感を体験させることもできます。

 8年前の2000年は宇吉郎の生誕100年にあたり、文化人切手が発行され、岩波から随筆集「中谷宇吉郎集」8巻が出版され、東京、北海道などでもさまざまな記念行事が行われました。加賀市では、恩師・寺田寅彦との二人展「寅彦と宇吉郎の絵画展」、片山津温泉での日本雪氷学会全国大会の開催、雪をモチーフにしたデザイン作品のコンペ「雪のデザイン賞」などを実施しました。このうち、「雪のデザイン賞」は、その後も1年おきに継続され、回を重ねる毎に応募が増えています。今年は第5回目の募集をする予定です。

 2005年には、ヨーロッパのラトビアで「雪と氷との対話展」を共催し、その前後から国際的な連携の要素が増えてきました。第4回雪のデザイン賞にはラトビアから22点の応募があり、その中から銀賞に選ばれた女性作者が来日しました。現在、韓国で雪のデザイン賞の移動展が開催されています。

 2006年度から使用されている中学校の理科教科書(東京書籍)では、冒頭の5頁で、自然を調べるモデルとして宇吉郎の雪研究のプロセスが紹介されています。

 宇吉郎や雪に私が関心を持つようになったのは高3の時でした。信大に入り1年先輩の岡田菊夫氏 に「雪をやりたい」と話したら「情熱があればやっていける」と励まされ、自然科学研究会に入部 しました。そして、1年の秋から、仲間とともに穂高岳の涸沢雪渓調査を始めたのです。宇吉郎門下 の樋口敬二先生(当時名古屋大学)らによる立山剣沢の雪渓研究に触発されたのです。涸沢での調 査は後輩たちも参加し、その後20年余り継続されました。

 現在の仕事を信大時代と直線で結ぶことはできなくても、不思議な点と線の縁でつながっていると考えています。思い出深い学生時代の経験が現在の仕事と結びつくことも多々ある、と感じています。

 13年間の活動は館通信に記録してきましたが、その全号が館のホームページ にPDFで収録してあり、ご覧いただければ嬉しいです。

                                  以上

● 関連WEBサイト ●
中谷宇吉郎雪の科学館
http://www.city.kaga.ishikawa.jp/yuki/




●「信州大学物理同窓会」事務局●

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