■信大定年退職後に私のしてきたことと,
     現在の状況,そして,抱負

勝木 渥(元信州大学教授/東京都多摩市在住)  12FEB.2002

 私は,1996年3月31日に信州大学を定年退職し,その年の4月1日から高千穂商科大学商学部の環境学担当の専任教授になり,5年間そこで専任教授として働いて,2001年3月31日にそこも定年退職しました。その後も非常勤講師として週に2日,高千穂大学に出講しています。担当授業科目は「生命環境科学」と「科学技術社会論」です。

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 高千穂商大在職中の5年間に2回外国に行って講義をしました。

 その第1回は,信大在職中から話のあったスロベニアのリュブリャナ大学教育学部です。先方は1996年秋から97年春にかけて半年ほど客員教授として滞在してほしいと望んでいましたが,まさか着任してすぐ半年も留守にするわけにもいかず,結局夏休み中に7週間ほどリュブリャナに滞在し,勝木流の生命環境論の講義をリュブリャナ大学教育学部が夏休み中に開いている中等学校理科教員の現職教育講習会(6日間, 48時間)で,また仮説実験授業「ものとその重さ「自由電子が見えたなら」の模擬授業を同じく小学校教員の現職教育講習会(3日間, 24時間)でやり,また,10月に入って大学が始まってから,小学校教員養成課程の学生に8時間の模擬授業と,理科教員養成課程の学生に10時間の講義をしました。いずれも大好評でした。

 2回目はメキシコです。プエブラ大学理学部物理学科が毎年開いている物理教育国際ワークショップ「物理教育の新動向」に招かれて,2000年5月下旬に10日ほどプエプラに滞在し,そのワークショップで,仮説実験授業「自由電子が見えたなら」の模擬授業をしました。この国際ワークショップは,メキシコの物理教師を対象に講師を国際的に招いて開くワークショップです。私が招かれたのは,サバティカルイヤーでスペインに滞在したプエプラ大学物理学科の物理教育学の教授が,リュブリャナ大学の友人からリュブリャナでの私の授業のことを聴いて,私を招いたのです。

 わが人生上の新しい経験もしました。それは東京都杉並区の「環境審議会」の会長を1997年7月1日から2001年6月30日まで2期4年間務めたことです。杉並区には1996年4月の東京都清掃局の「杉並中継所」(収集車が集めた,プラスチックを主体とする燃やせない家庭ゴミをコンテナーに詰め替えて,大型車で埋立地に運ぶための中継基地)の操業開始以来,周辺住民の間に健康不調者が続出するという,いわゆる「杉並病」問題が起こっており,私は「環境審議会長」として,また環境審議会の「学識経験者」委員として,環境審議会が真正面からこの問題に取り組むべきだとして努力しましたが,まったく不本意の状況のままで,任期を終えてしまいました。

 「杉並病」は現在なお「公害等調整委員会」で係争中であり,私は「杉並病」被害者を支援する科学者の会の積極的メンバーとして今も奮闘しています。同窓会の皆さんが「杉並病」問題に関心を持って下さることを切望します。

 高千穂に移ってから,本を2冊出しました。

 一つは1999年5月に海鳴社から出版した『物理学に基づく 環境の基礎理論 − 冷却・循環・エントロピー』という題の A5判293頁の本です。本体価格\2,400+税\120 ですが,海鳴社に直接,著者勝木の紹介だとの断り書きをそえてハガキかe-mailで注文すれば,送料込みで2000円で手に入ることになっています。
(注:書籍コードISBN4-87525-190-4 / 株式会社海鳴社 〒101-0065東京都千代田区西神田2-4-5 TEL03-3234-3643 KGD05241@niftyserve.or.jp)

 もう一つは,2001年4月に藤原書店からエントロピー学会の編集で刊行された『「循環型社会」を問う − 生命・技術・経済』という題の菊変形判276頁の本です。値段は本体価\2,200+税 です。私はこの本の第3章「生命にとって環境とは」を書きました(pp.46-67)。

 物理学史・物理教育・環境問題(とくに「杉並病」関係)でたくさん論文やエッセイを書きました。英語の論文も3編書きました。その題名と掲載誌を下に書きます。
"A rough sketch of history of solid state physics in Japan", Historia Scientiarum vol.7 107-123 (1997-12)
"Discovery and/or Invention of Useful New Materials and Limitations of Technology", Transaction of the Materials Research Society of Japan vol.24 281-286 (1999-9)
"A Contribution from Japan to Judgement, Which Is the Better, Old or New Quantum Theory − Measurement of Magnetic Susceptibility of Hydrogen Gas by SONE Take", Historia Scientiarum vol.10 177-184 (2000.11)

 学会関係では,私は今,エントロピー学会の代表世話人をしています。日本物理学会の「物理学史資料委員会」の委員でもあります。また,物理学会の中に「環境物理」の分科を立ち上げたいと何人かの有志と一緒に努力しています。その手始めに,2002年春の物理学会の年次大会のとき「環境と物理学」と題するシンポジウムを開催します。

 近未来の課題(学術上の)としては,ずっと構想を温めてきた物理学史の論文「日本の Marerials Science の展開と自立(本多光太郎と本多スクールの仕事の歴史的意義)」を今年こそは書き上げたいと思っています。



●「信州大学物理同窓会」事務局●

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