■退官に際して〜「雑感」…… 
永井 寛之(元信州大学理学部教授・磁性物理学/長野県穂高町在住)
        【信州大学学報2005年4月号(第612号)最終号より】

 永井先生は理学部長としても相前後して2期勤められ、学部の様々な改革にかかわってこられました。信州大学自然誌科学館、信州大学出前講座、化学科教授の公募、などなど。まだまだ、道半ば(?)での定年退官は、たいへん惜しまれます。学報に寄せられた原稿を転載させていただきました。

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 信州大学理学部に赴任して36年,この春定年を迎えることになりました。長い間お世話になりました。

 36年前は,ちょうど全国的に大学紛争が起こり,信州大学もやや遅れて紛争でゴタゴタしたものです。当時は,若かったものですから,学生達と大学の将来について居酒屋で議論をしたこともありました。信州大学としてはあまり深刻な事態にはなりませんでした。

 その後一年半の間フランス(グルノーブルCNRS)で研究し,今も共同研究は続いております。その後,信州の恵まれた自然環境の中で過ごしてきました。私は基礎研究が主の理学部で教育・研究に従事してきましたが,研究結果の実用化,商品化はできませんでした。

 しかし,理学部にも応用的研究結果でベンチャービジネスをおこした研究者もいますので,分野によっては実用化も可能ですが,自然界に存在する真理の探究が基礎学問の目的ですので,こうした例はまれな部類です。

 最近の大きな変革の一つは,平成7年度から教養部がなくなったことでしょう。タコ足大学が教養部を廃止して,総合大学は従来どおり続けるのですから大変です。共通教育の担当に関して松本地区の学部と隔地学部にかなりの温度差があり議論が絶えません。総合大学の体制を維持し,松本で1年間教養課程を勉強するために学生は過ごすのであれば,現状を改革し組織の見直しが必要でしょう。このごろ旧教養部的な組織案が検討されつつあるようですが,各学部の利害を抜きにして,社会に開かれたよりよい大学を目指して頂きたいものです。

 平成16年度から大学も法人化されましたが,公務員の定員削減など行政改革の一環として始まったものです。大学の見直しの後に議論されてきたものではありませんが,この機会に改革を進めていくのが現実的でしょう。

 しかし,社会の要請に応えて大学を改革するのは結構なことですが,社会に迎合して,大学が埋没することなく,自主性,自律性は保ちつつ時代に流されることのないことが大切です。基礎研究も応用的研究も重要であり,技術化可能なものだけに価値を認める社会の風潮は歪んでいると思いますので,追従ばかりする必要はないのではないでしょうか。優れた人材を養成し続ける信州大学を期待しております。

 最後になりましたが,信州大学のさらなるご発展と,教職員の皆様の益々の ご活躍とご多幸をお祈り申し上げます。



●「信州大学物理同窓会」事務局●

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