会長からのご挨拶

   物理同窓会 挨拶       同窓会初代会長 平林喜明(文理6)

 会長として選んでくださった方には失礼な話になると思うのですが、実は去年の暮、松原さんから「元旦にはホームページを開きたい、形を作るには、早く会長の名が必要だ」とのお話があって、何かズルズルとここまできてしまった感じです。あまり老害になってもいけないもんですから、一年をめどに、新進気鋭の方に替わっていただくべきものと考えております。

 さてこの前の挨拶にも書きましたので読んでいただきたいのですが、長野県の田中知事が脱ダム宣言を出しまして、これらの問題に検討を加える委員会の長に、宮地先生が選ばれまして、時々テレビでも拝見するようになりました。

 また、北 杜夫さんの「どくとるマンボウ青春期」にある松崎先生ですが、(北杜夫さんの)物理の答案の中に将来文筆に生きる素質を見抜きまして卒業させてやったというのは、本当の教育者の手本みたいなものです。ここで落としても何にもならないわけで、少しでも物理の思想に触れて世の中に出たので、これが文筆活動に生かされたのではないかと思います。

 今日出席されていない一人の友人と私は、向井先生が諏訪湖の水の透明度を研究されているのを見て、当時、花形の原子物理に比べて、何とまあパッとしないテーマだ、等とバカにしていたものです。ところが今日の環境問題から見ると、いかに重要なものだったか思い知らされます。私は定年後の今、諏訪市の文化センターにいますが、去年、臨湖実験所の研究発表会がありまして、ステージの照明やマイクのお手伝いができて、大変うれしく思った次第です。

とにかく私たちは、このように素晴らしい先生方の御指導を受けることができました。

 私自身、少し目覚めてはきたのですが、今となっては時すでに遅しという感じで、この会に於いては反面教師ということで「平林さんみたいに年とってからではきついんで、とにかくもう少し若いうちにやろうじゃないか」と考えていただくと、私の存在意義も生まれるわけで、できる限りは参加するつもりでおります。

 ところで、アメリカへ初めて行ったのは35年以上前のことですが、そのとき電話帳の表紙裏に、口移しの人工呼吸の絵が書いてあって、「心肺停止の人には、このようにすぐに人工呼吸をしなさい、人が集まってきたら頼んで、医者か救急車を呼びなさい」と書いてあった。アメリカの行政は非常に合理的で、そのような人にはまず空気を送り込むことが第一で、救急車を呼ぶのは第二だと明確な指導がされていた。
 その結果だと思うのですが、このような場合の蘇生率は、アメリカでは18%位であるのに、日本では1%、ようやく2%になろうかというところなんです。日本では金を使って、どんどん救急車を揃えてはいるが、実際はあまり役立っていない。脳が死なないためには、遅くも3分位で酸素の送り込みが必要なんです。救急車が到着するには、普通5〜6分以上はかかるので、もうだめなんです。判りきったことなんです。

 こういう非効率の例はいっぱいあって、宮地先生も大変御苦労されておられるのではないかと思うのです。とにかく税金の使い途、その効率の向上については、政治家は勿論のこと、教育者も、皆がもっと合理的、効率的、客観的になっていく必要がある。

 我々物理屋はですね、一見自分に都合の悪いことでも、事実がそうであるならば、その事実の前に平伏するわけですよ。そういう具合にして日本を良くしないと、そうですね、今から30年位で食糧も買えなくなるでしょうね。「大衆は愚にして賢」という言葉がありますが、一見馬鹿な様に見える大衆は、案外正しい所を見定めているものだという意味ですね。

 少子化の問題も、もう日本では1億2千万人は生きられないよと、読んでいるんでしょうね。年金が破綻するからといって、「生めよふやせよ」をやろうという政治家もいるようだけど、そんな間違いをしてはいけない。色々研究をして、この問題を何らかの形で軟着陸させるような政治をやらなければいけない。

 在学中に法律を暗記してしまって司法試験に通り、エリートコースばかりを苦労なく走る人が支配する日本では、岩手県かどこかであったように、気道を確保する為のチューブを入れるのは、医者にしか許されないという。本来法律は、人を助ける為に作られるべきなのに、法律が人を殺している事例が多すぎる。助かる人が多くなる確率に基づいた法律にして行かねばならない。

 この会が、単に飲み会に終わることなく、この会を利用してお互いに情報を交換し、お互いに刺激し、目覚めて、せっかく学んだ物理的、合理的思考を世の中に拡大していく会であってほしいと願っております。


  2002年5月吉日 



●「信州大学物理同窓会」事務局●

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